社会格差と健康格差の
実態を“見える化”
健康状態は、その人の遺伝的背景・加齢など避けられない要因のほか、生活習慣によるところが大きいのですが、生活習慣は、人との関わりや、その人が属する集団の社会経済的状態に依存することがわかっています。コロナ禍では、緊急事態宣言の発出などにより社会経済的な被害が生じており、これに伴って健康格差が拡大することが懸念されます。
そこで、コロナ禍における社会格差と健康格差の実態を把握するため、研究プロジェクト「日本における新型コロナウイルス感染症問題による社会・健康格差評価研究(The Japan COVID-19 and Society Internet Survey;JACSIS)」を立ち上げ、研究者たちが資金を出し合って、日本全国の約3万人を対象に生活全般に関する大規模なインターネット調査を実施しました(図1)。私は「知」活用プログラムの予算を用いて本プロジェクトに参加しています。1回目の調査は2020年8月から10月にかけて行い、2回目は同様の調査を2021年2月に実施する予定です。今後も少なくとも1年に1回は調査を行い、継続してその動向を追跡していきます。
図1 2020年のJACSIS研究の調査概要
私は妊産婦が抱える不安や、喫煙行動の変容、勤労者の労働生産性、乳幼児予防接種・健康診断の自粛について、調査分析を行いました。今後、在宅勤務による受動喫煙の実態も解析する予定です。
研究結果の一部を紹介すると、1000人の妊産婦を対象にした調査では、働く妊産婦のうち4人に3人が新型コロナウイルスの感染に不安を抱えながら仕事をしていることがわかりました(図2)。
図2 コロナ禍の中で働く妊産婦を対象にした調査結果
また、2020年5月に男女雇用機会均等法に基づく指針改正により、「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」を事業主に提出すれば、感染リスクの低い作業への変更や、出勤の制限、場合によっては休業の申請ができるようになりました。しかし、調査の結果、「母健連絡カード」の利用率は20%未満と低く、そもそも「母健連絡カード」を知らない人が半数に上ることが明らかになりました。
働く妊産婦の不安を軽減するために、まずはこうした制度があることをもっと周知する必要があるといえます。
今回の調査結果はベースラインとなるもので、今後、縦断研究に発展させることで、コロナ禍の健康への影響を中長期的に評価していきます。また、SNSなどでも積極的に発信し、政策提言を通して問題解決につなげることを目指します。