遠隔授業を障害学生の学びの選択肢に
大学では、障害学生の求めに対して、障害者差別解消法という法律による「合理的配慮」に取り組む必要があります。これは、障害のある人が障害のない人と同じように授業に参加できるように環境調整をするというものです。そのひとつとして遠隔授業の要望は感染症の流行前からありましたが、実施するのはむずかしく取り組むことはできませんでした。コロナ禍により期せずして導入した遠隔授業ですが、感染症の流行が収束しても障害学生の学び方の選択肢のひとつとして活用し、学生の能力を発揮できるようなよりよい形に変えていけると考えています。そこで、通常の対面授業と比べて、遠隔授業の利点や課題を明らかにすることにしました(図1)。
図1 研究の概要
春学期が終わった2020年7月、ウェブ調査によって筑波大学の障害学生25名と障害学生が受講した遠隔授業を担当した教員72名を対象に、遠隔授業の実施状況や満足度などを調べました。その結果、障害学生の約8割は今後も遠隔授業を受けたいと肯定的な回答をした(図2)のに対し、担当教員では、今後も続けたいと回答したのは3割以下で、約7割が遠隔授業にあまり肯定的ではありませんでした(図3)。
アクセスしやすいしくみや環境づくりを
調査では、肢体不自由の学生は「移動がない」、視覚障害の学生は「事前に資料が公開されること」、聴覚障害の学生は「動画の字幕設定」など、また、発達障害の学生では「自分のペースで学習できること」などを利点にあげました。「先生の顔が見えないので読話しにくい」、「音質が悪くて文字起こしがしにくい」などの声もあり、環境の改善の必要性も見られました。今回の障害学生の満足度の高さは、遠隔授業に合理的配慮を提供した結果ですが、一方、教員は学生の様子が分かりにくく、さまざまな障害に合わせた事前準備をするのが困難なことをあげています。
遠隔授業は、やり方によっては障害学生にとって効果的な学びを実現することにつながりますが、そのためには、教員が無理なく実施できるしくみや障害の有無にかかわらず、学生が取り組みやすい環境づくりが必要なことが示されました。
いま、全国の大学などの高等教育機関に在籍する障害学生を対象に、遠隔授業のアクセシビリティ調査を進めています。筑波大学では、多様な障害学生に対して充実したサポートができるようなシステムを導入し、支援学生の養成を含む体制の整備なども積極的に行っていますが、学校によって合理的配慮のやり方や遠隔授業の環境が異なり、障害学生の授業へのアクセスの仕方が異なるはずです。
全国調査から、合理的配慮によって学習がどのように変化したか、どのような影響があったかを明らかにし、障害学生が公平に学べる環境をどのように構築していくか、効果的な遠隔授業のあり方について議論を深めていきます。また、研究の成果を教育に限らず、障害者の雇用環境のユニバーサルデザイン化につなげていきたいと考えています。
(取材・執筆:佐藤 成美 サイテック・コミュニケーションズ / ポートレート撮影・ウェブデザイン:株式会社ゼロ・グラフィックス)