佐藤 博志Sato Hiroshi

「コロナ禍の学校経営」を
ポストコロナに生かす
教育長・校長のリーダーシップ調査

2020年3月2日から、全国の学校で一斉に臨時休校の措置がとられ、授業の再開後も分散登校が実施されるなど、学校教育が大きな影響を受けました。このような非常時における学校の対応、さらに今後のポストコロナ時代における教育経営には、教育長や校長のリーダーシップが不可欠といえます。そこで私は、教育長や校長たちへのインタビューを通じて、コロナ禍における危機対応などリーダーシップの発揮のしかたを調査しました。その結果、今後は、サステナビリティ(Sustainability)、イノベーション(Innovation)、エクイティ(Equity)の視点が重要度を増すという示唆を得ました。

研究戦略イニシアティブ推進機構┃

教育経営のリーダーたちへのインタビュー

安倍晋三首相(当時)の全国の小・中・高校に対する臨時休業要請により、学校教育は大きな影響を受けました。私は、コロナ禍の非常時における学校の対応の成否はもとより、今後の「Society5.0」に対応しうる学校教育の実現には、教育長と校長のリーダーシップが不可欠と考えました。そこで今回、当事者たちにインタビューを行い、意思決定や行動のとり方を調べるとともに、そこから今後の教育政策への示唆を得ることを目指しました。

自ら積極的に、GIGAスクール構想や子どもたちの主体的・探究的な学びについての提言を発信している大規模自治体の教育長に相談して趣旨に賛同をいただき、2020年8月、2回のインタビューを実施しました。さらに、9月〜12月に6校を訪問し、校長らにインタビューしました。

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図1 研究の枠組。教育長、校長のほか、保護者へのインタビューも行った。成果を世界に向けて発信していくため、インタビューは佐藤博志教授がメンバーを務める「成功した校長のリーダーシップに関する国際研究プロジェクト」(ISSPP: International Successful School Principalship Project)の定めるグローバルな手法に則して行った。佐藤教授はISSPPの日本初のメンバーで日本から唯一、参加している。日本の教育研究の成果は世界に向けて発信すべきであり、日本の教育経営研究を世界に通用する手法で行って諸外国と比較する必要があるという考えから、研究成果を英語でも報告する予定である。

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自律的判断の局面が増加する校長

教育長からは、コロナ禍の危機状況において、より意欲的に仕事をしていこうという決意や、保健衛生のガイドラインを状況に応じて設定するといった計画性がうかがえました。また、今後はICTの活用を前提に、協働的な探究学習を進めていきたいという展望を示し、自身も多数の校長たちとオンラインでディスカッションするなど、ICT活用への積極姿勢が見られました。海外の潮流を意識し、客観主義から社会構成主義に日本の教育も転換すべきとの認識も感じられました。

校長たちからは、異口同音に「コロナ禍において自律的判断を迫られる局面が増えた」という話が聞けました。興味深かったのは、行事開催をめぐる判断と対応です。運動会・体育祭を実施した学校では種目を精選し、中止した学校ではスポーツ大会を代替で実施するなど、開催の判断は分かれながらも、児童・生徒への配慮や工夫が見られました。

また、校長が「責任はとるから思いきって挑戦してほしい」と自身の責任を明示し、教諭たちの新たな取り組みを推進している学校では、教諭たちのICT勉強会や、休校中の廊下の壁のペンキ塗り作業が自発的に行われていました。

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図2 校長らへのインタビューで得られた、各学校の行事対応と、これからの学校の在り方への考え。インタビューでは、指導主事や教育工学の大学教員を招いて校内研修を行う(C中学校)、以前から電子黒板とタブレットを日常的に活用しており、その経験をもとに、休校中もオンラインの双方向授業とホームルームを実施した(F高等学校)などの工夫も聞かれた。 「人生で一度しかないその学年での行事が中止ではかわいそうだ。なんとか思い出づくりができるように」「久しぶりに登校したとき、子供たちが少しでも明るい気持ちになるようにペンキを塗ろう」といったような、先生が生徒を思うエピソードも多くあった。

学校にサステナビリティ、
イノベーション、エクイティの視点を

学校経営と教育実践は、子どもの発達を支援するために、いかなる状況においても続きます。コロナ禍の影響に着目して行った研究を、ポストコロナ時代にも生かさなければなりません。今回のインタビューなどから、教育委員会や学校には次の3つの視点が必要になるという示唆を得られました。

1つ目は、サスティナビリティ(持続可能性)です。子どもの教育や発達は持続可能なものでなければなりません。2つ目は、イノベーション(革新)です。子どもが、予期せぬことにどう対応するかを論理的に考えて大人へと成長するような教育を進めていくことが重要です。ICTと対面のベストミックスによる協働的で探究的な学びは、今後、特に重視されるでしょう。そして3つ目は、エクイティ(公正)です。困難を抱える子どもも通学するのが公立学校です。子どもの潜在能力を伸ばすための環境づくりが自治体や学校に求められています。

「現場」の調査に基づき、ポストコロナ時代の教育の方向性を示すことができました。今後は、今回調査した自治体に属する学校の校長に意識調査を実施し、未来の教育に向けての課題を抽出していく予定です。

(取材・執筆:漆原 次郎 サイテック・コミュニケーションズ / ポートレート撮影・ウェブデザイン:株式会社ゼロ・グラフィックス)

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