山田 実Yamada Minoru

介護予防のためにコロナ禍における
高齢者の身体活動量を調査
2020年の緊急事態宣言期間中は
活動時間が3割減少

新型コロナウイルス感染予防のために高齢者の活動量が減ると、心身の活力が低下する「フレイル(虚弱)」になるなど二次的被害が生じかねません。そこで私たちは、コロナ禍における高齢者の活動量の実態を把握するため、2020年4月と6月に調査を実施しました。1回目の緊急事態宣言期間中の4月には身体活動時間が3割ほど減少していました。宣言解除後の6月は活動量が元に戻った高齢者がいた一方、独居で、近所の人との交流が無い高齢者は、回復しにくい傾向がありました。調査を継続すると同時に、この結果を生かし、どのような介入をすれば活動量を維持できるのか研究を進めています。

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独り暮らしで近所の人との交流がないと
回復が困難

新型コロナウイルスで重症化するリスクの高い高齢者にとって、感染予防はとくに重要です。一方で、感染を恐れたり、緊急事態宣言で不要不急の外出の自粛を求められたりして外出を極度に控え、身体活動量が大きく減れば、フレイル化や転倒、骨折、入院、要介護といった二次的被害の発生が増えると懸念されます。私はこれまで老年医学の立場から、要介護状態を防ぐには高齢者がどのような生活を送ればいいのかを研究してきました。その実績を生かし、コロナ禍による二次的被害を防ぐ対策を提言したいと考え、まず土台となる実態調査を行いました。

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介護予防には、身体活動と社会活動、栄養摂取が重要な役割を果たします。その中で、今回は身体活動と社会活動について調べました。第1回調査は全国に緊急事態宣言が出ていた4月、第2回調査は宣言が解除された後の6月に実施しました。いずれもオンライン調査を専門とする企業に委託し、この企業に登録している65歳~84歳の1600人を対象にしました。回答者の居住地は東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、兵庫、福岡の8都府県、平均年齢は74歳、男女比は半々です。1回目は1600人全員から、2回目はそのうちの1425人から回答を頂きました。

第1回調査では、新型コロナウイルスがまだ全国規模で大流行する前の2020年1月時点での活動量と、緊急事態宣言が出た後の4月の活動量を尋ねました。その結果、1月には、身体活動時間が中央値で週245分だったのが4月には180分と、26.5%も減っていました(図1)。

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図1 2020年4月に1600人を対象に実施した調査結果。緊急事態宣言が出た4月には、1月に比べて身体活動時間が3割近く減った。それでも、回答者のほぼ半数は、意識的に運動を続けていると回答した。多かったのが自宅内での運動(複数回答可で35%)やウォーキング(34%)だった。

第2回調査では、緊急事態宣言が解除された6月の活動量を尋ねました。回答者全体でみると、1月の活動量レベルに回復していました(図2)。しかし、居住環境や近所の人と会話を交わすかどうかといった「社会参加」の有無によって細かく分析すると、独り暮らしで、しかも社会参加の無い方は、より回復しにくい傾向がありました(図3)。

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図2 6月の調査結果。回答者1425人の6月の1週間当たりの身体活動時間は、ほぼ1月のレベルに回復していた。

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図3 6月の調査結果。独り暮らしで社会参加の無い人は、6月になっても身体活動量が1月のレベルまでは回復しておらず、回復がより困難であることがわかった。

活動量を減らさないための介入方法を研究

コロナ禍で高齢者の身体活動量が減っているだろうということは、漠然と多くの人が予想していたことではありますが、3割近くも減っていることを具体的な数値で示せたことは大きな成果でした。結果は、全国の地方自治体の介護予防担当者にすぐにお知らせしました。結果を見て、要介護となる高齢者を増やさないための対策を早急に検討したい、といった反応もありました。第3回調査も行っています。

2回の調査結果を受けて、私たちは独居や社会参加の無い高齢者も含めて介護予防をするには、どういった支援や介入をしたらいいのかという研究を始めています。具体的には電話やメール、インターネット動画などを使った方法を検討中です。2021年4月には、具体的な提言を行う予定です。

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山田 実(筑波大学 人間系)
Project Name / COVID-19感染拡大が高齢者の活動に及ぼす影響

(取材・執筆:大岩 ゆり サイテック・コミュニケーションズ / ポートレート撮影・ウェブデザイン:株式会社ゼロ・グラフィックス)

ー さらに詳しく知りたい方へ ー