マニエー渡邊 レミーMAGNIER-WATANABE REMY

テレワークの満足度―カギになるのは

自宅での適切なワークスペースの確保
緊急事態宣言下の
「強制的なテレワーク」でみえてきたこと

2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症の拡大に対する政府の緊急事態宣言を受けて、テレワークに懐疑的だった多くの日本企業で急きょ在宅勤務が始まりました。社員は準備期間もなく始まったテレワークにうまく対応できたのか。私たちは、テレワーク期間中とそれ以前での社員の「幸福度」の変化、テレワークの満足感に影響した要因などについて大規模な意識調査を行いました。その結果、回答者の半数以上がテレワークに満足していたこと、満足感を左右する決定的な要因が「自宅での適切なワークスペースの確保」であることなどが分かりました。

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自宅でのテレワークに54%が満足

社員の幸福度は会社への定着率や仕事の生産性を左右するため、企業にとって労働環境の整備は大きな関心事です。また、日本では少子・高齢化の影響で慢性的な人手不足が続くとみられ、女性労働力の活用は行政、企業にとって喫緊の課題です。緊急事態宣言下での「強制的なテレワーク」は、企業がデジタル化への対応を迫られ、新しい働き方を模索するなかで貴重な体験の場となりました。

調査は、経営学や心理学などを専門とする研究者5人が集まり、首都圏に住む既婚の日本人正社員400名(男女各200名ずつ)を対象に8月に実施しました。正社員に限ったのは企業の経営方針を反映しやすいためで、一般人を対象とした他の調査とは異なるところです。

日本では、互いに顔を見ながら、人間関係やコンセンサスを重視して業務を進める傾向があるため、これまで企業はテレワークを“非効率”として導入に躊躇(ちゅうちょ)していました。ところが実際に経験してみると、「それほど悪くない」、「良い面もある」、と社員は感じていることが分かりました。緊急事態宣言中のテレワークに「満足」していた社員は54%を占め、68%が感染収束後も続けたいと感じていました。望ましい頻度は「週3日」が最多となりました(図1)。

テレワークへの移行による幸福度の変化は、男性は「経済状態」の項目で低下し、女性は「家族」で上昇しました。

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図1 回答者のうち68%がコロナ収束後もテレワークを続けたいと感じている。頻度については週3日を希望する人が23%と最も多く、週2日、週5日とした人がそれぞれ17%だった。

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自宅での適切なワークスペースの確保が
テレワークの満足度を左右

では、何がテレワークの満足度に影響したのでしょうか。重回帰分析という統計的手法で予測変数(因果関係で原因に当たるもの)を調べた結果、意外にも「自宅で仕事に適切な場所を確保できていたか」が他の要因(仕事のパフォーマンスやテレワークの頻度など)を圧倒して男女ともに最大だとわかりました(図2)。集中できる空間の有無と強制的なテレワークの満足度の関係が明らかになったのは初めてのことです。その傾向は女性で顕著でした。また、驚いたことに、子供や介護の必要な同居家族の有無は、これらの結果に影響していませんでした。

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図2 テレワークの満足度に関係する要因。適切なワークスペース以外に、男性では仕事のパフォーマンスも関係していた。仕事の自律性や裁量権は、満足度と相関がなかった。

一方で、テレワークの結果、男性の場合「仕事のパフォーマンス」が低下したと感じたことは懸念材料です。

「今後もテレワークを続けたいか」は、女性では「ワークスペース」が最大の要因となりました(図3)。配偶者も同時に自宅で在宅勤務を強いられた場合、男性の適切なワークスペース確保を優先する傾向にあります。おのずと、女性はキッチンなど不十分なスペースでの仕事を強いられます。

これに対して、男性では「仕事のパフォーマンス」が最も影響していました。ただし、今回のテレワークは事前の準備がない状態で始まったため、訓練や準備しだいで改善が可能だと私たちは考えています。企業はバーチャルな空間でも、上司からのフィードバックや同僚とのコミュニケーションの機会を作ることが、必要とされるでしょう。

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図3 コロナ収束後もテレワークを続けたいと答えた人の傾向。女性では、仕事と家庭で期待される態度が異なるため、葛藤がある人ほどテレワークを望まない傾向も見られた。

今後、私たちは自宅での「適切な」仕事環境とはどのようなものか。例えば仕事用の机やPCモニター、個室の必要性、などを個人の面接で調べる予定です。また、自宅での男女のワークスペースの使用実態およびそれに関する男女の考え方を深く追究していくつもりです。

(取材・執筆:井上 裕子 / 編集:サイテック・コミュニケーションズ / ポートレート撮影・ウェブデザイン:株式会社ゼロ・グラフィックス)

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